明治も末期の四十年代。
いわゆる「千里眼」ブームが巻き起こる。 鈴木光司の『リング』のモデルにもなった御船千鶴子を取り巻く「事件」は特に有名だろう。 御船千鶴子の話はオカルト番組なんかでも時々取り上げられる。残念ながら突っ込みどころ満載のデタラメであることが多いけど(笑) この明治の「千里眼」ブームを概観するためには、『千里眼事件』(長山靖生、平凡社新書、2005)はオススメできる。中立を心がけた記述には好感が持てるし、充実した内容で720円(税別)という爆安(笑) 「千里眼」問題に関しては俺も多少興味があるので、ちょっとずつ資料を集めたりしている。そのうち纏まった記事にできればいいのだが、今日はエピソードをひとつご紹介。元ネタは明治42年10月14日付報知新聞。 京都大学にて、十二日同地に興行中なる、彼の仙人と自称する片田源七を文科大学に招き、松本文学博士、今村医学博士を始め、其他文科医科大学の諸教授列席して、仙人の心身両方面を研究したりなんと天下の京都帝国大学が「仙人」の研究をしたというのである。 「千里眼」を始め、この時期、いわゆるオカルティックなものにアカデミックな関心が集まっていたのである。 片田源七は、宮城の山奥から出てきた自称「仙人」である。河合先生のマジック資料室によれば、「刃の上を渡り、熱湯に火傷せず、頭で梵鐘をつく」といった、いわゆる危険術を見せる人だったようだ。 さて、この京大の「仙人研究」、いったいどういうものだったのか。 …報知の記事によると、実になんとも、ヒドいものだったようなのである。 先づ最初微弱なる程度より、電流を其身体に通じ漸次に其度を強めたる要するに、自称仙人の源七老人の体にいきなり電気をビリビリ流したというのである。 源七は苦痛を忍び、「曳々」と吐鳴り立てるが、無論何等の効果無きにぞ…ヒドいなぁ。これじゃあ拷問だよ。 で、当然のことだが源七じいさんは怒り心頭大激怒。 大学の学者共が己れの信仰によりて得たる仙術を、機械の力によりて破らんとするは不都合千万なり、誰か己れの刀を持って来い、此学者共を片っ端より叩き切つて呉ん破れ傘刀舟のように怒鳴り散らす仙人。学者連慌てて電気の説明を丁寧にして、怒り狂う仙人殿をなだめたとか。 つーか、電気ビリビリ流す前に説明してなかったんかい! そりゃあ源七じいさんが怒るのも当然だわな(笑) なにしろ、 此源七に通じたる電流は、若し普通人なりせば忽ち気絶する程の強度のものなりしだっていうんだから(爆) 常人なら気絶必死の高電圧に耐えた仙人、実に大したものではないか。仙術というのもまんざら…となればまだしも、この実験の「結論」というのが輪をかけてヒドいんである(笑)。 仙人が耐えられたのは『全く其旺盛なる精神の作用』である、と。ここまではいいのだ。ところが、要するに精神が旺盛なだけで、 源七が山中にて仙人より仙術を授かつたり等称するは、全く精神病的の幻覚に一致したりと…いきなり既知外扱いである。 事前の説明もなしに気絶するほどの電流を流して、それに耐えた人を掴まえて「精神が旺盛だっただけ。仙人に習ったつーのは精神病的幻覚だね」…いくらなんでも酷すぎる結論ではないか。 現代オカルト批判の急先鋒、オーツキ教授だってこんなヒドイ「実験」はしないだろう(笑)。今だったら人権問題どころか刑事事件になりかねない話である。 …いや、まあ確かに文明開化明治の御世に仙人に仙術習ったって話はちょっとアレだと俺も思う。思うけど、結論ありきだったら何のための実験だったんだろうか。 実は京都大学の松本文学博士、今村医学博士は、一連の「千里眼」事件の中でもメインキャラクタとして名前が登場する。 京大内部での研究の覇権争い、京大と東大の反目その他のバックグラウンドに関しては『千里眼事件』始め関連書籍に譲るが、その辺のドロドロしたオトナの事情も、多少この酷い「実験」に影響しているのかもしれない。
by SIGNAL-9
| 2008-07-03 16:03
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