近デジを漁っていて、フト見つけたのが、章華社という出版社の『なるまで叢書』。
と、かなりの怪気炎かつ商売っ気マンマンの序文で判る通り、なにかに「なるまで」どうするか、というハウツーもののシリーズである。 もちろん、今の時代には実際の参考になるものではないが、これが中々にイイ感じの風俗史の資料として読めるのである。 例えば「映画女優」を目指す女性向けの職業案内、『映画女優 スタアになるまで』(小池善彦 大正15)。 口絵写真でいきなり田中絹代だの松井千枝子だのが登場するので、俺みたいな偏った映画好きは、もうそれだけで映画が娯楽の王様だった時代に引き戻される感じである。 …なに、田中絹代って誰、だと? そういう人はひいおじいちゃんにでも聞いてくれ。 職業としての女優の紹介なので、当然いちばん重要な収入(ギャラ)の話も出てくる。 「蒲田の人気スタア」というのは、当時ブイブイいわせていた松竹蒲田撮影所のこと。 月給五百円は今で言うとどのくらいなのか。換算は難しいが、大正15年当時、東京・大阪間の鉄道料金、三等片道で六円五銭。東京・上野間が十銭の時代である。ざっくり1000~2000倍見当で50~100万くらいだろうか。 意外と少なく感じるが、消費財そのものの値段が安い時代だ。公務員の初任給が75円くらいなので、ケタ違いの高給であることに間違いはない。 当時の(日本から見た)ハリウッドの状況や、人気女優のエピソードなど、映画史に興味のある向きには面白く読めると思う。 なお、ハウツーものではないが、昭和22年刊行の『映画五十年史』(筈見恒夫 著)なども近デジで読めるので、映画ファンは是非。 『なるまで叢書』からもう一冊、『名探偵になるまで』(須藤権三 大正15)。 現代において「探偵」という言葉は、ほぼ「私立探偵」と同義だが、この当時はちょっと違う。 つまり、この本は今でいえば「名刑事になるまで」ということになる。 「名探偵になるまで」のキモであるべき「なる方法」が、「警察官採用試験を受けなさい」というのは、あんまりじゃなかろうか(笑) さよう、この本、「名探偵に、俺はなる!」と意気込んでこの本を手に取ったであろう読者に、現実という名の冷や水をぶっかけまくるのである。 う~ん、昔も今も現場の辛さは変わらないのだなぁ。
「君にもなれる!」的に、安易に読者に迎合することなく、「軽い気持ちで出来るような仕事じゃないんだ」と真実を伝えようとしている、非常に良心的な本ではある。 でも、これじゃあ『名探偵になるまで』じゃあなくて『名探偵になってはいけない』だよ! さてこの『なるまで叢書』、近デジには現在の所、他に『化粧秘訣 美人になるまで』、『野球選手 主将になるまで』、『囲碁初段になるまで』が収められている。 それぞれに、当時の社会風俗を反映しているので、そのジャンルに興味のある人にはけっこう面白く読めるだろう。 巻末の宣伝によると、『大臣になるまで』『小説流行作家になるまで』『博士になるまで』などが続刊予定とされている。 これらが本当に出たのかどうか判らないが、あるのだったら近デジへの格納を期待して待ちましょう。
by signal-9
| 2012-09-04 13:41
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