さて、何度も肴にさせてもらっている酒井勝軍であるが、酒井の本みたいに、社会的・思想的に難しいコースを狙ってる近デジ本でよく見かけるのが、検閲の痕跡である。
一例として酒井の『神代秘史百話』(昭和5)の2コマ目を見てほしい。 『安寧禁止』、よーするに「発禁」つーことである。 これは前に書いた「伏せ字」と関連する。 昭和11(1936)年の九月、全国特高課長会議で、「伏せ字」の扱いについての論議があった(蛇足ながらゆとり世代のために解説しておくと、特高というのは「内務省特別高等警察」の略称だ。一般的犯罪ではなく、出版・集会・結社・・火薬・怪獣など、国家体制の根幹に関わる『犯罪』の取り締まりにあたった組織だな) 「いままではマズいとこは伏せ字にしてありゃギリ通してたけどさ、伏せ字って憶測生んで逆効果じゃね?」 「てゆーか、むしろ伏せ字なんて一掃しちゃえないの?」 「伏せ字を一掃するには、そもそもその本出版させなきゃいいんじゃね」 「ちょwおまwwwww」 「天才登場」 そんなこんなで(どんなだ)、伏せ字一掃 → 発禁という、最悪のウルトラC級解決方法が決定されたわけだ。 この決定に基づく発禁処分は、今だったら「なんで?」と思うような本も引っかけられている。 例えば福沢諭吉の『文明論之概略』。織田作之助の『夫婦善哉』。 酷いのになると、「巻末の広告に禁止対象本が載ってるから」という理由だけで、内容に関係なく発禁を喰らった本まであった。 この時の発禁には、大きく分ければ、『安寧禁止』即ち「安寧秩序紊乱に相当するから禁止」と、『風俗禁止』即ち「風俗壊乱に相当するから禁止」の二種類があった。 「安寧秩序」というのは、国家とか社会が平穏で乱れていないこと。 酒井の本は、国家の秩序を乱すモノだから禁止処分=『安寧禁止』、ということである。 で、具体的に酒井の本のナニがマズかったのか、だが。 大方の推測の如く、検閲官が指摘した問題のページには国体に関わる『異端』の史観が述べられているわけだが、この本通読した感じでは、もっとマズいんじゃね? という箇所があちこちにあるように個人的は思える。 削除指示されている問題のページだけ特に何がマズかったのか、いまいちピンとこない。 何度も同じ本を取り上げて恐縮だが、これも酒井の『太古日本のピラミッド』。 これまた表紙裏に、検閲の書き込みがある。 こっちは、どこが何故マズのかちゃんと記載してあるのでわかりやすい。 「神武天皇以前の皇統譜の出現、及びウガヤフキアエズ朝の存在」。 『神代秘史百話』も『太古日本のピラミッド』も、いわゆる「竹内文献」(竹内文書・天津教文書)の影響を受けて書かれた本で、ようするにソコがマズかった、というわけだ。 今時だと「竹内文書」は、一般的にはせいぜい『ムー』か『歴史読本』読者のおもちゃみたいな認識だろうが、当時の社会状況ではかなりヤバいシロモノだったわけである。 現に酒井は、後にいわゆる「天津教事件」に連座する形で検挙までされているのだ(最終的には不起訴処分)。 さて、『太古日本のピラミッド』の検閲ページには「神社局考證課同意見」とわざわざ記してあったり、図書課長と事務官が押印してたり、かなり扱いがセンシティブであったことを窺わせる。 一方、もうひとつの発禁「風俗禁止」の方だが、ハンコ一発で済ましているものが多いような気がする。 先般、近デジのアクセスランキング一位を獲得した(爆)『エロエロ草紙』 (酒井潔 昭和5)とか、『実話ビルディング : 猟奇近代相』(武内真澄 著 昭和8)なんか、「風禁」のハンコか、小さなレッテルが貼られているだけだ。 「安寧禁止」に比べ、「風俗禁止」の方は「エログロなんて、わざわざ検閲するまでもない」的なやっつけ仕事感が感じられる…というのは、俺の偏見かねぇ(笑)。
by signal-9
| 2012-08-23 17:28
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