今から三十四・五年前のこと、石見国邇摩郡和江裏の魚屋が、ある夜更け、隣郡の長久村から帰るとき、字静間という部落の田圃路にさしかかると、茶碗大の朱色の火の玉が転がりながら前方から向かってきた。 "火の玉"と"ろくろ首(抜け首)"の違いはあれど、どう見てもこれは前に紹介した「白昼に飛び歩く抜け首」と同じ話、つまり『曾呂利物語』の改変話である。― 建文は自分で同じ本の中に書いてて気がつかなかったのか(笑) 建文はこの話と同じ項で、「人魂追撃の実話は、古来甚だ多いが、今一ッ代表的な実話を書こう」と、東京府大森町の医師、中村剛庵の「実話」を書いている。 ところが、その話というのが。
また同じじゃないか!(笑) いちおう、この「中村剛庵」医師に探りを入れてみたら、「成田山仏教図書館」の蔵書データベースで、同じ話らしきものが引っかかった。「昏睡中に極楽を観た人 臨終の苦を解脱せし人 中村剛庵氏霊魂を追撃す」。著者名は"五十嵐光龍"。『自働療法』などの著書がある催眠術師だな。 「叢書名:道 41」という雑誌?の発刊年月が不明なので、どちらかがどちらかの引用である可能性はあるが(建文のこの記事は俺的分類のタイプCつまり新聞記事か何かの引用である可能性が高い。少なくとも直接採話ではない)、いずれにせよ何か元になった話があったのは間違いなかろう。 【2012/02/27追記】 その後、建文の『奇蹟の書』に目を通していたら、数カ所で『道』からの引用との記述を見つけた。ので、これは『道』誌の五十嵐光龍の記事を建文が引用した、という可能性が高いように思われる。 なお、『道』誌というのは、宗教法人道会の機関誌のようである。 つまるところ、このモチーフはすごく「有名」なのだな。 考えてみりゃあ、妖しのものに襲われて反撃・追撃したら意外な正体が判明…なんておとぎ話とか、けっこうありそうだしなぁ。 で、柴田宵曲の『奇談異聞辞典』でちょっと探してみたら案の定。 『怪談老の杖 巻一』(要約) 赤坂伝馬町での話。寝ている主人がうなされているので女房が揺り起こすと、今夢の中で侍に刀を抜いて追いかけられた、という。視点が目撃者側から"犯人"側に変わっているが、"同じ話"といえよう。 「人魂追撃の実話は、古来甚だ多い」なんていうのだから『怪談老の杖』なんて有名なものは建文も当然読んでるはずだ…というか、間違いなく読んでるのだ。 だって同じ『霊怪談淵』の、この「人魂を追撃す」の項の75ページ後ろでその『怪談老の杖』から引用してるんだから(笑) 平秩東作の『怪談老の杖』は『曾呂利物語』より後年のものなので、『曾呂利物語』を参考にしたのかも知れないが、この調子だと『曾呂利物語』もオリジナルではないのかも。 そもそも「抜け首」話と「火の玉」話が同じモチーフで語られているということは、「抜け首」話が先にあって「火の玉」が後なのか、それともその逆なのか。 日本の怪談・奇話は支那原産というものが多いのは周知のことだが、この話も原点は海外産なのかも。 今度調べてみるか。 ま、こういう発見があるのも奇談を読む楽しみである。
by signal-9
| 2012-02-09 10:49
| 奇談・異聞
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