明治珍聞:牛込の謎の大穴

先日、こういう記事を紹介した。
明治26年(1893年)7月31日

牛込区原町の荒物商中川某は、九人の子供のうち七人までが死んだため、易者の言をいれて乾の方角の古井戸らしい辺りを一丈ほど掘ったところ、大穴があって中に整然とした住宅を見出して珍聞となった。

明治世相編年辞典(東京堂出版)より
 奇妙な話なので興味がわき、引き続き多少調べては見たのだが、残念ながらこの話自体の出所、真偽含めた詳細はわからなかった。

 だが、この謎を解くヒントになるかもしれない事例を発見した。

 いわく、『牛込原町の大穴』事件。

 『風俗画報 新撰東京名所図会 第342号』(明治39年6月25日発行)の牛込区の項に、『水野の原の大穴』と題した記事が掲載されていたのである。

 牛込原町というのは、今でも新宿区原町として名前が残っている。大江戸線の牛込柳町駅で降りた辺りの一帯だ。
 当時の地図も見てみよう。今の地図と違い、上が南になっているので注意して欲しい。
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 当時のこの地域の状況は『新撰東京名所図会』によると、
 原町の通りは、戸山学校、砲工学校、成城学校中学等の往還なれば、方今は漸次繁昌し、商家相接するに至れり。其の他は舊武家地たりしを以て、尚ほ組屋敷の観あり。下宿には東洋、櫻、千歳、養真、高盛等の諸館散在す。然れども未だ割烹店の如きものをあるを見ず。僅かに牛肉店、蕎麦店等の客を引くに過ぎず。
 とある。

 さて、『新撰東京名所図会』は6月6日付の読売新聞の記事を孫引きして、「謎の大穴」についてレポートしている。
 水野の原は、原町三丁目に在りて、今は陸軍の用地たり、此地は元禄年間紀伊家の附家老水野大炊頭の祖先対馬守の拝領したる所にて、明治以後原野となりしものなり。
 頃者其の西南隅少しく高き所に於て大穴を発見せり、六月六日の読売新聞に原町の大穴と題して記して云。
 以下、この読売新聞の記事を孫引きして要約する。そのマンマ引用しても読みにくかろうから表現には潤色を加えるが、基本的には逐語的な要約である。

…………

 原町三丁目八七番地に成城学校中学という学校がある。

 元々陸軍参謀総長の川上操六が創設したため、当初は陸軍士官学校の予備校のような存在だったのだが、学校令改正に伴い普通中学に変わったものだ。
 とはいえ、出自がそういう性格であり、かつ明治当時のことなので、軍事訓練が教育の一環となっていた。
 つまり、この学校には軍事教練を行う練兵場があったのである。

 6月3日、この練兵場の西北隅の地面が少し陥落した

 そのまま放置しておいたら、翌4日正午に再び陥没した。
 陥没場所を調べてみると、その穴は直径約四尺(1.2メートル)、深さ二十間(原文は廿間。つまり36メートルだが、いくらなんでも深すぎると思う。ニ間の間違いか?)くらいあり、穴の中には回廊のようなものが続いていた

 さらに中を調べてみると、八畳と六畳くらいの広さの、土で出来た部屋が二つあり、廊下には土の棚のようなものも発見された。
 穴の高さは、普通の人なら自由に通れる高さのところもあれば頭を下げなければ通れないところもあった。

 その界隈の人々は、麹室(こうじむろ)なのでは?とか、昔この辺りにあった水野対馬守の屋敷の抜け穴なんじゃないの?とかいろいろ噂をしているようだが、どうもその正体は謎に包まれているのである。

 その正体を探るべく6月5日朝8時30分頃、成城学校勤務の陸軍将校が助手5人を従え、安全ランプを携えて穴の奥に突入した!

 北の方へ進むと、月桂寺附近と思しきところから微かに日光が漏れているのを発見、これはまさしく抜け穴であることを確認した。
 更に西の方角に進むと、成城学校の校舎の桜の木のあるあたりと思しきところからも、日光が見え地上の人の声が聞こえる始末。

 土砂に埋まってしまい確認できない道もあったが、どうやら抜け穴と見て間違いないのではないか…。
 新聞記者が聞き込んだところでは、穴の中で古い壺や犬の骨のような牙を備えた白骨を発見したという話もある。

 ………というのが読売新聞の報じた記事である。

 だが、諸君、どうも得心がいかないではないか。

 本当に水野屋敷の抜け穴だとすると、何故、部屋や棚らしきものが作られているのだ?

 屋敷の抜け穴といえば火急の時に速やかに脱出する目的で作られるはずだ。抜け穴の途中に部屋や棚など、作る必要があるだろうか?

 しかし逆に、麹を育成するための麹室だとしてもちょっと変だ。そうだとすると抜け穴みたいに通路が長く伸びている説明が付かないではないか。

 勇敢なる我が皇軍将校の探索も結局、謎を深めることとなったわけである。
 
 謎が謎を呼ぶこの奇怪なる「大穴」の正体や如何!

 奇絶!怪絶!又壮絶! その驚愕の真実は次回明かされる! 読者よ刮目して待て!

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by SIGNAL-9 | 2008-02-08 11:12 | 古い話 | Comments(0)
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