アダム・ファウアー 『数学的にありえない』

アダム・ファウアー『数学的にありえない』上下(訳:矢口誠,文藝春秋)

 「徹夜必至の超高速超絶サスペンス!」「前代未聞の物語のアクロバット!」「未曾有の超絶的サスペンス!」だのと仰々しい売り文句が並んでいたので、ジャケ買いしてみた。
ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』が切り拓いた知的サスペンスの分野に、それをはるかに凌駕する傑作が誕生しました
 文藝春秋、相当な自信である。

訳者あとがきも、褒める褒める。
卓越したアイディア、圧倒的なリーダビリティ、そして作品の随所にちりばめられた量子力学、統計学、確率論などの専門知識ー本書『数学的にありえない』の面白さをひとことでいうとしたら、「マイクル・クライトン系のノンストップ・サスペンス」という形容がいちばんわかりやすいだろう。
さて、まずもって言っておくが、俺はこの小説は「SF」だと思う。
 最近は「SF」とジャンル分けすると売れないそうなので、各出版社は「SF」として売らないそうなのだが(で、仕方なく「『ダ・ヴィンチ・コード』が切り拓いた知的サスペンスの分野」なんて勝手なジャンル作ってるわけだな。アレが知的かどうかはかなり疑問だが)、どーみてもSFです。

 で、「SFとしてみた場合」には、本作は「できの悪いSF」である。

 「卓越したアイディア」?

 基本になっているアイディアは別に目新しいものではない。
グレッグ・イーガンの「宇宙消失」あたりと比べては可哀相だが(つーか不敬か、逆に)、はっきりいって既に手垢のついたアイディアである。
 そこから先の、素材の生かし方・料理の仕方が作家としての勝負だと思うのだが、素材のマンマでなんのヒネリもない。 ネタ自体は上巻終わり辺りで予想がつくが、予想を下回ったという読者も多いのではないか…つーか、俺はそうだったが。寿司が出てくると思ってたら、生魚のどんぶり盛りが出てきたみたいだ。

 「作品の随所にちりばめられた量子力学、統計学、確率論などの専門知識」?

 入門書の、入門章に書いてあるようなことを並べただけで「専門知識」とは笑わせる。「量子力学」の解説は一般雑誌の「解説」レベルの、大雑把・かつ微妙にヘンな要約だし、「確率論」は「ひとつのクラスに同じ誕生日の人間がいる確率は?」つー、数学パズルの類で嫌というほど見かける例の奴レベルだ。ダン・ブラウンでももう少しヒネるかハッタリ効かすちゅーねん。

 「未曾有の」「超高速超絶サスペンス」?

 まあ、このヘンは読み手の心証だろうけど、俺的にはサスペンスは感じなかったなぁ。キャラの印象が薄いし、動機付けが薄弱で感情移入しにくいしアクションシーンも平凡。プロットの性格上仕方ない面もあるかもしれないけど。ソウヤーあたりの方がまだサスペンスフルなんじゃないの?

 ヲタク的物言いで言えば、この本は「ウスい」のだ。

 …大人気なく酷評してしまった。

 ちょっとだけフォローしておくと、老い先短いので短気な上に、飽きっぽくて気に入らない本は途中でもすぐに読み捨てちゃう俺が、いちおう最後まで「読み通せた」んだから(けっこう努力は必要だったけど)、読む価値まったく無しとはいわない。
 素人の処女作にしてはガンバッていることは認めるにやぶさかではない。

 最初に言ったとおり、俺はSFとして読んだんで、他の評価基準でだったら、「おもしろい」「傑作」つー評価をするヒトもいるかもしれない。現にちょっとググってみると、そういう評価をしている人が多数見つかる。
 そりゃあそれで別にかまわん。そこまで趣味が違うヒトとは、俺は絶対に友達にはなれないだろうが(笑)。

 なんで俺がここまで酷評するかというと、ジャケ買いのウラミだけなのだ(笑)

 柳の下の二匹目の鰻を探していて、「泥鰌しかいなかったけど、カバ焼きにしちゃえばわからんだろ」って感じだな。 上下巻合わせて4400円也。相対的に見れば別に腹の立つ金額でもないが、羊頭狗肉、誇大広告でダマされたと思うと腹が立つ。
 買わせりゃあ勝ちと思ってるのかもしれないが、長い目でみりゃあ逆効果だと思うぞ。オビの煽り文句をもう少し控えめにしてくれるか文庫で出してくれりゃあ、ここまで腹はたたんのだ(笑)

 「超絶」で「前代未聞」で「未曾有」で「『ダ・ヴィンチ・コード』をはるかに凌駕する傑作」ねぇ。

 「ウソ・大げさ・紛らわしい」広告を取り締まってくれるJAROとかいう組織があるんだよね? 誰か連絡先教えてくれないか(笑)
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by SIGNAL-9 | 2006-09-28 11:28 | 読んだり見たり | Comments(0)
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