「異議あり匿名社会」キャンペーンに再び

 9月の集中豪雨で床上浸水の被害を受けた東京都中野区の約800世帯について、税の減免や受信料免除が受けられるよう、同区の担当課長が住所と氏名を都税事務所とNHKに提供したところ、「個人情報保護条例に違反した」として、今月24日付で訓告処分を受けていたことが分かった。都や指揮者からは疑問や批判の声が上がっている
読売新聞は、一連の「異議あり匿名社会」キャンペーンの一環で、29日朝刊でこのような「問題」を取り上げた。

元記事は残念ながらオンラインでは読めないようだが、紙面を読んで、俺はあいかわらず首を傾げてしまったのである。
ところが、受信料免除の申請書をNHKから送られた一部住民が「個人情報が勝手に提供されている」と苦情を寄せたことなどを機に、区議会で問題化
 あえて意地悪く取ると、けっきょく区民の苦情が元になっているわけである。「苦情が発生した時点でアウトじゃないのか」という見方もできる。少なくとも、「そういうことはイヤ!」といった人がいるわけだ。
 個人情報をそれぐらいセンシティブに、厳格に扱ってもらいたいというニーズがあることも見つめなければならない事実だと思うのだが、読売の記事は、処分はあくまでも批判されるべき「過剰反応」である、という立ち位置である。ちなみにその翌日も、この記事に対して肯定的な、すなわち処分は不当だとする読者の電話が寄せられた旨記事にされている。

 公平のために記しておかなければならないが、31日付夕刊では、当該記事に対する中野区側(田中大輔区長)の反論もいちおう掲載されている。また、俺が数日前に疑問を呈しておいた「異議あり匿名社会」キャンペーン自体が無署名記事ー匿名ーで行われている点も、29日付け解説面で社会部の小松夏樹氏の署名・顔写真付の記事として纏められており、読売新聞の姿勢は評価できると思う。

 ところが、他のソースも当たってみると、この読売の立ち位置そのものに疑問が生じるのである。渋谷区議会議員のおかの雄太氏のBlogにはこのような記事がある。
*この記事を書いた後、中野の区議会議員に事情をお聞きしました!
杉並では、NHKや都税事務所からの通知を、区役所の封筒に入れて、各世帯に送ったようで、名簿に関しては提供しておらず、中野では何故、杉並のような対応をしなかったのかという議論が、区議会であったようです。
またNHKは、受信料を減免するに当たっての通知に、「今後広報などで通知をする場合があります。」というような文言が入っており、名簿がどのように使われるのか(不払いの請求?)という不安が、住民にもあったようです。

この件に関し、中野の区議会議員の方は、新聞記事を、もう少し詳細に書くよう抗議したいと言ってました!
 読売紙上の中野区側からの反論にも、必要のない人の名簿まで提供してしまったとの発言もある。 
 中野区の豪雨被害につけこんで、国交省を名乗った悪徳業者が暗躍していたという話もあった。そのような事情を考えると、被害住民の情報の扱いが不適切だったという批判自体が間違いとする立場には一概には組できないのではなかろうか?
 役所の業務として不適切なやり方だった-少なくとももっと適切なやり方があった-という認識と反省に基づき粛々と処分を行ったことが、これほどに批判されなきゃいけないようなことなのか。「善意」に基づけば手段が「間違って」いても批判されるべきではない?

 社会部小松氏の解説記事は(個人情報保護法の)「全面施行から間もない混乱の中で、「とにかく提供しなければ責任を問われない」という「事なかれ主義」が横行している」と断じ、自治体・公務員の情報非開示にフォーカスした論旨である。この辺の論調に関しては、俺も「まあ、そういうことはあるだろうな」と思う。ただ、それがおしなべて「悪いこと」なのかどうか、という判断に関してはいまだ留保せざるを得ない。

 早い話が、読売のキャンペーンは俺にとってはまだ「説得力に欠ける」のである。

 以前にも書いたが、結局のところ「匿名社会」と読売が定義している<もの>がいったい何なのか、それがいまひとつはっきりとしない。
 公務員の責任逃れのための情報隠し=「匿名社会」なのだろうか? だとしたら、そんな大仰なネーミングで取り上げる大問題なのか? 「異議あり匿名社会」というからにはむしろ、「一部住民が「個人情報が勝手に提供されている」と苦情を寄せたこと」を掘り下げて考えるべきなのではないのか。
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by SIGNAL-9 | 2005-11-01 10:21 | 奇妙な論理 | Comments(0)
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