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隕石の記録。

 ロシアの隕石事件、 けが人が一杯出たことも、家屋に大きな被害が出たことも重々承知の上で、あえて不謹慎な表現をすると「スゴかった」

 あの大きさの隕石があんな浅い角度で突入してきて空中爆発するところが、これほど大量に記録されたなんて、空前絶後のことだ。

 今回は突入角度が浅かった上、人口密集地に落ちたので大きな被害をもたらしたが、隕石落下自体はそう珍しいものではないのは周知のこと。

 ふと思いついて、手元にある江戸時代の奇談集を漁ってみた。
 大きな石が轟音と共に落ちてきたというものはないだろうか。
反古のうらがき

 (天保初年の)二十年ばかり前、十月の頃、八ツ時(午後二時)頃なるに、晴天に少し薄雲ありて、余(著者の鈴木桃野)が家より少々西によりて、南より北に向かひて、遠雷の声鳴渡りけり。 時ならぬこととばかり思ひて止みぬ。一二日ありて聞くに、早稲田と榎町との間、とどめきといふ所に町医師ありて、その玄関先に二尺に一尺ばかりの玄蕃石の如き切り石落ちて二つに割れたり。焼石と見えて余程あたたかなり。其所にては響も厲(はげ)しかりしよし。

 玄蕃石というのは、敷石とか蓋石に使用する長方形の板状の石のことなので、これはどうやら形状的に隕石のセンは無さそうだ。

 著者の鈴木桃野は、「南の遠国にて山焼きありて吹上げたる者なるべし」と推測している。「切石といふも方直に切りたる石にてはなく、へげたるものなるべし」、切石状といっても切ったものじゃなくて、剥がれたものなんじゃないか…と、何を言ってるのかよく分からないが(笑)、要するに剥離した石が山火事の影響で吹き上がったもの…ということなのかな。
 そんな事ありうるのだろうか。
半日閑話 巻16

 十月八日夜 牛込辺へ壱間半程の石落ち候由 先年は八王寺辺に石落ち候由 疑ふらくは異国より員数を計る為ならんやと。 この度も益々雷鳴有之 夜に入り光り物通るよしなり

 これまたよくわからない。雷鳴に光り物、ということで隕石と共通するような感じはあるが、大きさ一間半というと2.7メートル。
 エネルギー=(1/2)質量×速度の二乗である。いくら何でも、地上に落ちた時のサイズがそんなにデカい隕石だったら、こんな騒ぎで済むはずはない。
 ふわふわ落ちてきたとかいうのなら別だが。
「異国より員数を計る為」というのも、どういう解釈なのか学の無い俺にはさっぱりわからん。

 どうも怪しげなものばっかりだな。もう少しマトモな記録はないのか知らん…と探していたら、おお、毎度おなじみ『甲子夜話』巻四十にそのものずばりがあるではないか。

 同林子曰く今玆(今年)十月八日夜戌刻下り、西天に大砲の如き響して北の方へ行く。林子急に北戸を開て見れば、北天に余響轟きて残れり。後に人言を聞けば、行路の者はそのとき大なる光り物飛行くを見たりと云ふ。

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
 こりゃあ間違いなく隕石である。
 奇談好きのボクらのアイドル、平戸の殿様、本所のご隠居こと松浦静山公、こういうことまでしっかり記録してくださっているのだな。ありがたいことだ。

 ━━ 数日後、林くんに再び話を聞いた。

 「私が轟音を聞いたのと同じ夜に、早稲田にある、下級の御家人の家の玄関近くに、石が落ちて屋根を打ち破り、破片が飛び散ったらしいです。
 七・八年前、これは真っ昼間でしたが、今回のような音がして飛行物体が目撃され、八王子の農家の畑の土に大きな石がめり込んだことがありました。この時の石は焼き石のようで、発見した人々は打ち砕いて弄んだそうですが、今度の石も同じような質のものだったと、見た人が証言しています」

 昔、「星が落ちて石になった」などといったのはこういうことなのだろうか。自然というのは思いがけないことをするものだ。

 以前にも書いたが、七・八年前の「飛び物」というのは、私(松浦静山)の家の者も目撃していた。
 大きさは四尺以上もあったらしい。赤いような黒いような、雲のような火焔のような、鳴動回転して中天をすごい速さで飛んだという。その飛行の跡は火光の如く、余響を曳くこと二三丈(6~10メートル)に及び、東北から西方に向かった。
 目撃した者は最初は驚いて見入っていたが、怖くなって家の中に逃げ込み、戸を塞いでしまったので、けっきょくどうなったのかは判らなかったという。
 林くんの証言を聞いたので、ここに継ぎ記しておく ━━ 

 さすが松浦静山、「星が落ちて石になった」=隕石というものを認識している教養もさることながら、この活き活きとして要点を押さえた記録は見事なものだ。
 カガク的に正しい隕石の記録は『天文年鑑』とか読めばいいのだが、こういうナマの目撃証言はやはり迫力がある。

 時代も下って明治大正の記録だと、近代デジタルライブラリーでも、このような「ナマっぽい」隕石の目撃証言が読める。

 日本の隕石史でもけっこう有名な美濃隕石に関しては、『美濃隕石 : 附・日本隕石略説』(脇水鉄五郎 著 明44)が詳しい。
 その他、『岡山県気象報告』(岡山県測候所 編 大正15)にも、隕石発見の生き生きとした記録がある。
by signal-9 | 2013-02-21 16:40 | 読んだり見たり
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