【近デジ漁り】 「秘伝」

 適当なキーワードで近デジ検索してみて目に付いたモノを読んでみる、という使い方は俺みたいな乱読タイプの人間にはよくあるはず(勝手な思い込み)。
 で、「秘伝」というキーワードを使うと、けっこう面白げな本が見つかるよ、という話である。


『萬呪秘法』(己羊社 大正9)。

 「よろず まじない ひほう」と読む。「呪」の一文字がオドロオドロしいが、これは「のろい」ではなく「まじない」、要するに「おまじない」の本である。

 例えばこんな感じ。

 ■家運隆盛となるまじない

  十二月中に豚の耳を切り取って、家の梁の上に懸けておく。

 ■出世のまじない

  八月の月見に供えた月見団子を盗んで食べれば出世する。

 「豚の耳を切り取るとか無理だし」「盗んで食べればって、出世どころか窃盗罪で人世棒に振ることになるんじゃね」などの冷静なツッコミは止しておくべきなのだろう(笑)。

 こんなのだけだと「おばあちゃんの知恵袋(迷信)」みたいだが、いわゆる呪符(おふだ)を使うものも結構載っているのがもっともらしい。

 ■金持ちになるまじない

  下のような符を作って、常に首に掛けておけば金持ちになる。

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こういうイミフだが怪しい香りのするガジェット何となく御利益のありそうな気になるではないか(笑)。

 俺はこの種のモノにはトント疎いので、これらの呪符に何が書いてあるのか・どういう意味があるのか、さっぱり分からないが、「急急如律令」(きゅうきゅう‐にょりつりょう)というのは、元々は漢の時代の公文書の末尾に記した定型文で「上記趣旨理解の上、取り急ぎ律法の如く実施すること」的な意味だったものが、道教や陰陽道に取り入れられて、悪鬼退散的な意味でまじないの言葉に使われるようになったもの、と記憶している。

 見る人が見れば、こういうわけのわからない呪符でも「あ、これは真言密教の影響」とか、いろいろ興味深い解釈は出来るのだろうな。

 ■女の嫉妬を止めるまじない

  1.ウグイスを煮て喰わせるべし

  2.その婦人の月経の付いた布にヒキガエルを包んで
、便所の前30センチほどのところを掘って、地中15センチくらいに埋める。

 喰わせちゃいますか、ウグイス煮。

 「鶯煮」って漢字で書くとちょっと旨そうにみえるから不思議だ。
 味付けはどうするんだろう、やっぱり味噌煮かなぁ。

 ウグイスはまあ、ペットショップなどで購入できないことはなかろうが(よく知らない)、その煮たのをどうやって女に喰わせるか、という方が嫉妬を止めさせるより難しいのでは無かろうか。

 ヒキガエルの方がミッション的には多少難易度が低いかなぁ。
 「お前の経血の付いた布をよこせ」とかいったら、ドン引きされて、結果的に嫉妬どころぢゃなくなりそうだし。

 とまあこんな感じで、福徳・恋愛・健康から災難よけ、害獣避け、虫除け、退魔法から安産まで、ムリョ250項目オーバーのおまじないが記載されているが、なんだかどれも手順がスッゲー面倒くさいか、手順が簡単なものはあまり効きそうにない(笑)


 もうちょい簡単で効きそうな秘術はないのかしらん、と探してみて発見したのが、『発明奇術 廿一法秘伝書』(信本峻峰 明治23)。

 本書に挙げる奇術廿一法は信本峻峰先生が自己他人の発明、あるいは家伝の数百秘法を実地に経験せられ、その中もっともなり

 だそうで、いわゆる「おまじない」ではなく、怪しげな漢方秘薬生成法みたいなのが並んでいる。

 ■酒を嫌いになる妙法

  白ゴマと黒ゴマを煎って、細かく挽き、熱湯で溶かして毎日二回呑む

 ■肥満解消

  山椒を毎日10粒程度服用するといい具合にやせる

 と、この辺りなら、目指す効果があるかどうかは別として、まあまあ健康には悪く無さそうであるが、

 ■毛はえ薬

  芫青丁幾、肉荳蒄油、刺賢垤兒油、と芳香水を混ぜて、刷毛で一日三回塗る。

 ■記憶力を増進する薬

  塩酸規尼涅、還元鉄、康桂皮末、橙皮末、甘草末を蒲公英エキスで溶いて丸薬にして服用。子供と赤ん坊は量を減らして服用させること。

 この辺りになると、もはや素人がほいほい作って試していいようなシロモノとも思えない。

 ググってみると、「肉荳蒄油」というのはナツメグ油、「刺賢垤兒油」はラベンダーオイルらしいのでまあ危険は無かろうが、「芫青丁幾」つーのは、昆虫のアオハンミョウのことみたいだ。
 アオハンミョウから取れる「カンタリス」(カンタリジン)というのは昔は媚薬に使われてたことぐらい知ってたが、Wikipediaによれば「皮膚につくと痛みを感じ、水疱を生じる」というくらい強い副作用があるそうで、量を間違えて禿頭に塗ったらエラい事になりそうな。

 「記憶力増進」の方も、俺みたいな脳みそが毎日耳からこぼれ落ちてるんじゃないかと思うほど物覚えの悪い奴には魅力を感じる話だが、塩酸規尼涅=塩酸キニーネなんてマラリヤみたいな熱病の時に使う鎮痛解熱薬だ

 原著にはちゃんと量が明示してあるが単位がみんな古いから、試してみようと思う炎のチャレンジャーは、よくよく調べてからにしたほうがいいぞ(笑)。

 ■梅毒必治法

  ヨードカリを水で溶いて日に三回に分けて服用すれば必ず治る

 確かにヨウ化カリウムは「第三期梅毒のゴム腫の吸収を促進します」、と現代でも使われているようなので、症状を抑える上ではまるっきり間違いではなさそうだが、梅毒自体を「必治」するものぢゃないだろう常考。

 …というようなツッコミは、書かれた時代を考慮しないといけないよな。

 現代において梅毒治療で使われる抗生物質(ペニシリン)が発見されたのが、昭和3年(1928年)。この本が書かれた明治23年(1890年)は、40年近く前だ。
 その時代で書かれたモノにしては、「秘伝書」を名乗ってもいいんじゃなかろうかという気もする。

 俺はバケ学とかヤク学とかにはまったく無知だし、「よい子はマネしちゃダメだよ」としか言えないが、そーゆー方面に知識のある人なら面白く読めるかもしれない。

 意外と「忘れ去られていた知見」とか「現代でも応用可能なアイディア」が得られるかもしれないし。
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by signal-9 | 2012-09-07 14:28 | 読んだり見たり
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