【近デジ漁り】発禁

 さて、何度も肴にさせてもらっている酒井勝軍であるが、酒井の本みたいに、社会的・思想的に難しいコースを狙ってる近デジ本でよく見かけるのが、検閲の痕跡である。

 一例として酒井の『神代秘史百話』(昭和5)の2コマ目を見てほしい。

 安寧禁止 7.4 警視庁 32,33,124,125頁削除 三月十六日午後二時 警視庁へ示達

 『安寧禁止』、よーするに「発禁」つーことである。

 これは前に書いた「伏せ字」と関連する。

 昭和11(1936)年の九月、全国特高課長会議で、「伏せ字」の扱いについての論議があった(蛇足ながらゆとり世代のために解説しておくと、特高というのは「内務省特別高等警察」の略称だ。一般的犯罪ではなく、出版・集会・結社・・火薬・怪獣など、国家体制の根幹に関わる『犯罪』の取り締まりにあたった組織だな)

「いままではマズいとこは伏せ字にしてありゃギリ通してたけどさ、伏せ字って憶測生んで逆効果じゃね?」

「てゆーか、むしろ伏せ字なんて一掃しちゃえないの?」

「伏せ字を一掃するには、そもそもその本出版させなきゃいいんじゃね」

「ちょwおまwwwww」

「天才登場」

 そんなこんなで(どんなだ)、伏せ字一掃 → 発禁という、最悪のウルトラC級解決方法が決定されたわけだ。

 この決定に基づく発禁処分は、今だったら「なんで?」と思うような本も引っかけられている。

 例えば福沢諭吉の『文明論之概略』。織田作之助の『夫婦善哉』
 酷いのになると、「巻末の広告に禁止対象本が載ってるから」という理由だけで、内容に関係なく発禁を喰らった本まであった。

 この時の発禁には、大きく分ければ、『安寧禁止』即ち「安寧秩序紊乱に相当するから禁止」と、『風俗禁止』即ち「風俗壊乱に相当するから禁止」の二種類があった。

 「安寧秩序」というのは、国家とか社会が平穏で乱れていないこと。
 酒井の本は、国家の秩序を乱すモノだから禁止処分=『安寧禁止』、ということである。

 で、具体的に酒井の本のナニがマズかったのか、だが。

 大方の推測の如く、検閲官が指摘した問題のページには国体に関わる『異端』の史観が述べられているわけだが、この本通読した感じでは、もっとマズいんじゃね? という箇所があちこちにあるように個人的は思える。

 削除指示されている問題のページだけ特に何がマズかったのか、いまいちピンとこない。

 何度も同じ本を取り上げて恐縮だが、これも酒井の『太古日本のピラミッド』
 これまた表紙裏に、検閲の書き込みがある。
 こっちは、どこが何故マズのかちゃんと記載してあるのでわかりやすい。

 禁止可然哉

 天皇ハ日本一国ノ天皇ニ非ズトナシ世界ニ君臨スベキ事理ヲ論ズルニ當リ其論證方法トシテ神武天皇以前ノ皇統譜出現及鵜草葺不合朝ノ存在ヲ云爲スルハ皇統竝ニ國史ニ紛更ヲ来スモノト認ム
(参照先ページ数は省略)

 「神武天皇以前の皇統譜の出現、及びウガヤフキアエズ朝の存在」。

 『神代秘史百話』も『太古日本のピラミッド』も、いわゆる「竹内文献」(竹内文書・天津教文書)の影響を受けて書かれた本で、ようするにソコがマズかった、というわけだ。
 今時だと「竹内文書」は、一般的にはせいぜい『ムー』か『歴史読本』読者のおもちゃみたいな認識だろうが、当時の社会状況ではかなりヤバいシロモノだったわけである。
 現に酒井は、後にいわゆる「天津教事件」に連座する形で検挙までされているのだ(最終的には不起訴処分)。

 さて、『太古日本のピラミッド』の検閲ページには「神社局考證課同意見」とわざわざ記してあったり、図書課長と事務官が押印してたり、かなり扱いがセンシティブであったことを窺わせる。

 一方、もうひとつの発禁「風俗禁止」の方だが、ハンコ一発で済ましているものが多いような気がする。

 先般、近デジのアクセスランキング一位を獲得した(爆)『エロエロ草紙』 (酒井潔 昭和5)とか、『実話ビルディング : 猟奇近代相』(武内真澄 著 昭和8)なんか、「風禁」のハンコか、小さなレッテルが貼られているだけだ。

 「安寧禁止」に比べ、「風俗禁止」の方は「エログロなんて、わざわざ検閲するまでもない」的なやっつけ仕事感が感じられる…というのは、俺の偏見かねぇ(笑)。
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by signal-9 | 2012-08-23 17:28 | 読んだり見たり
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