謎の男 岡田建文 (とりあえずの纏め)

 さて、岡田建文の残した奇談をいくつか紹介したわけだが。

 俺の感想を言葉を変えて繰り返しておくと、この岡田建文という人物は、今でいうところの「オカルトライター」の「元祖」だったのではないか、ということだ。

 明治末期から昭和初期にかけて、西洋心霊主義の台頭や新興宗教ブームもあり、オカルト的論説に手を染めた文筆家はさして珍しくはない。
 だが、建文のように、専業で、しかも一般紙からオカルト専門誌まで広くフィールドにし、民俗学的な分野でも収集者やインフォーマとして扱われていた人物となるとかなり珍しいと言えるのではあるまいか。

 なので、”怪しげなオカルティスト”とラベリングして葬り去るのは勿体ないかも、と思ったわけである。

 ただ、いくつか見てきた例でも判るように、伝承や民俗学的興味で、建文の集めた奇聞を「使う」上では困ったことがある。

 建文の本の特徴として、おおむね
  1. 自分で体験したもの

  2. 自分で採話したもの(ソース明示あり)

  3. 新聞記事や雑誌記事などが情報源(ソース明示なし)

  4. 古典や他文献からの引用(ソース明示あり)

という区分が出来そうだと指摘しておいたが、問題はやはり「新聞記事や雑誌記事などが情報源」の場合にソースが殆ど明示されていない、というところだ。

 以前にも書いたが、例えばCタイプの典型例として『霊怪談淵』に「水戸の化け物屋敷」という項がある。
 この話はソース明示無しなのでおそらく何か他の媒体からの引用だろう、と推測していたのだが、当初、何からの引用なのかさっぱり判らなかった。

 で、偶然、これとまったく同じ話が来原木犀庵(慶助)『通俗霊怪学』(明治44)に掲載されているのを見つけ、記事の引用元が「松村介石氏の発起に成れる『心象の研究』に寄せられた」ものと明記してあるので、ネタ元が判明したのである。

 同じくこれもまったくの「偶然」なのだが、もうひとつ建文のネタ元を発見できた。

 『霊怪談淵』の巻末解説で引用されている神田柳原の大銀杏の呪いの話は、高橋五郎『霊界の研究』(明治44年)P111にまるごと引用されている、『探検世界』が懸賞付きで募集した「不可思議譚」で、入賞した投稿記事と同じ話である。

 問題はこの「偶然」というところなのである。
 たまたま『霊界の研究』にも目を通したから発見できたわけで、建文本だけ読んでいたら元ネタが雑誌―しかもあの『探検世界』―の投稿だったということは絶対に判らなかっただろう。

 本当にこれが残念なのである。
 どこから採話したのか、引用元だけでもきちんと書いておいてくれれば、建文の「オカルト本」はもっと使いでがあったのに。

 『やまと文範』や『近世支那人傑伝』の編纂で名を残している時事新報の小野田孝吾が明治17年に上梓した『珍事奇聞 一読百驚』みたいに、せめて節末に日付と引用元だけ入っていれば…としみじみ思うのである。

 というのも、ある意味で俺は建文を信用しているからだ。
 「どうやら自分で話をでっち上げているのではない」という印象を持っているからなのである。

 例えば、建文が大正12(1923)年11月『心霊界 第十号(十一月号)』から三回に渡って掲載している記事『瀧姫の霊と女修行者』(後に『霊怪談淵』でも採録されている。『出雲の瀧姫行者』)は、自分で取材したと明記してある。

 この『瀧姫の霊と女修行者』の話は、現代でもちゃんとその痕跡が残っているようなのである。

「日本滝百選  島根」によると、芦谷(あしだに)の滝にはいまでもこの「事例」の石碑が建っているそうなのだ。
 しかもその石碑に記載されている当事者の名前は建文の記述通り

 建文が記録したとおり、瀧姫の霊が降りたと称して活動をしていた女性が居たことは確実といえそうだ。

 またいくつか発見した引用元の確認できた記事について、引用元と照らし合わせてみると、建文はかなり馬鹿正直に引用していることが確認できた。

 つまり建文は、今時のどこぞのインチキなオカルトライターみたいに、事例そのものをでっち上げたりはしていないだろうと思われるのである。
 これは建文が信奉者・ビリーバー(語感が悪いが、他に適当な表現が思い浮ばない。この文脈で馬鹿にする意図はまったくない)なので、事例の収集に極めて真面目に取り組んでいたからだろうと思う。

 つまり、蛇体の双生児とか三十年妊娠とか、どう考えても「ホント」のことではないだろう話も、建文が記録した当時は「どこか」で「ホント」のこととして語られていたのだろう、と思うのである。

 明治末期から昭和初期にかけて、どのような奇談――今でいえば「都市伝説」――が巷間語られていたのか。建文の「オカルト本」はそのとっかかりとして「使える」というのが今のところの俺の結論。

 残念ながら、岡田建文に積極的な興味を持っているのは広い日本で俺だけのようなので(笑)、ネタが尽きた。

 建文ネタはこれでひとまずクローズとする。
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by signal-9 | 2012-03-21 17:41 | 奇談・異聞
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