パトレイバーの予言

「もういい、やめたまえ。馬鹿馬鹿しい、すべては机上の空論ではないか。聞けばこのシミュレートは謹慎中のレイバー隊員が整備員とともに開発したプログラムによるそうだが、君はそんなものが信頼するに足ると、本気で考えとるのか」

「気象庁の予報によれば台風19号は明後日未明には首都圏を直撃します。プログラムの追試を依頼する時間はありません。可能性にすぎないといわれますが、今のところそれを否定する根拠が何一つ存在しないこともまた事実であります。
 台風の上陸にともなう強風により方舟が鳴動、それにひかれて湾岸に林立する百数十におよぶ超高層が低周波の咆哮をあげ、首都圏8000のレイバーが暴走を起こす、その結果がどうなるか申し上げる必要もないと思います。湾岸および都内の再開発地区はもちろんのこと、地下1000メートルのジオフロント作業部、さらに一部の原発の炉心部でも、レイバーは稼働中であります。
 もしこのシミュレートが現実のものとなったとき、その大惨事を、いやその犯罪を未然に防止できなかった責任を誰がどのようにおとりになるのか、お聞かせ願いたい」

「後藤君、首都圏におけるレイバーのOS書き換え作業はすでに完了している。仮に君の主張する帆場暎一の犯罪計画が存在するにせよ、事実上無効となったとみてよいのではないか?」

「HOSの正体はMITの協力を得て解析中とはいえ、まだ不明であります。レイバー本体のメモリ内に潜伏している可能性は否定できないと、専門家の意見も一致しております。この際、一度でもHOSに接触したレイバーはすべて汚染されていると考えるのが妥当です。台風の進路を変えるか。超高層をなぎ倒すか。8000台のレイバーを解体するか。それとも…四者択一。決断をお願いします」

「…本日未明より台風の通過を確認するまでの期間、都内におけるレイバーの起動を全面的に禁止する。レイバーの製造、補修ラインも同期間中は停止すること。消防庁、防衛庁ならびに隣接する各県へも指示説明を行なって協力を求める。以上だ」

「部長。停止中のレイバーも低周波の干渉によって自動的に起動する可能性があります。例の自衛隊の試作レイバーの一件をお忘れですか?」


 昨日の話の続きである。

 「コンピュータは見えなくなる」というのは電脳屋ケンちゃんこと坂村"TRON"健氏の名言であるが、最近は機器制御・組み込み用途で「見えない」コンピュータというのがほとんどだ。パソコンなどのように「見える」状態で動いているコンピュータというのは、プロセッサ総数からすればほんの一部に過ぎない。

 昔は、組み込み用途とか専用機器といえばフルスクラッチ、みたいな事だったのだが、最近はそういったものにも汎用OSが使用されるケースが増えてきた。一から作るよりもコスト的に有利だからだ。
 最近だとLinuxやWindowsを組み込み用途で使うケースもよく見かける。

 そんな状況下、意外なところで意外なものが動いているケースもある。

 1997年、アメリカ海軍の巡洋艦が、Windows NTのおかげで立ち往生した話は、「ビル・ゲイツにノーベル平和賞を」という冗談になったくらい有名だが、いまや「その」Windowsでさえ、銀行のATMや車載機器、POSなどに使われており、ウィルス対策をはじめとするセキュリティ対策がかかせなくなってきたプリンタコントローラのタグイにもWindowsパッチが必要という、笑っちゃうような状況は、今まさに現実のことである。

 昨日書いた「自動車ウィルス」の話も、携帯用汎用OSのSymbian向けウィルスがBlueToothという汎用通信機能を使って自動車にアタック?という話だった。これは結局デマだったようだが、「感染しない」から安心ということではなく、アタックに対して機能不全を起こさないということが重要なのはいうまでもない。
 少なくともBlueToothのオフシャルページを読む限り、BlueToothを使ったDoSアタックへの対策は、認識されてはいるが、対策はまだまだ途上というのが真実のようである。

 、多様性のない系の脆さというのは、生物学その他でさんざん論証されてきたことだ

 一台二台の動作不全ならまだしも、自己複製機能を有するウィルスやワームの類による同時多発障害は、「大量絶滅」を引き起こすこともあり得ない話ではないと思う。「同じOS」「同じインタフェイス」のシステム・ネットワーク内では、人間社会にとっての致死性ウィルスのアウトブレイクと似たような状況を引き起こしうる。

 巨大建設機械が暴走してビルをなぎ払い、制御が利かなくなった自動車数千台が都内を爆走、頭の上からはハングした旅客機が落下…というのは冗談としても、レイバーに象徴されるような、巨大なアクチュエータだのモータだのエンジンだのが付いている、つまり物理的に「動く」マシンの制御系に齟齬が出た場合、人命にかかわるような直接的な物理的被害が発生しうる。
 それが同時多発的に発生したら?

 そこまでいかずとも、正常に動いているべきシステムが一時に大量に動かなくなるだけでとんでもない被害が引き起こされるであろうことは、CodeRedやらなにやらのWindowsワームの猛威ですでに経験済みである。

 また、それがウィルスやワームのような愉快犯的犯行ではなく、テロとして冷徹に計算・計画された犯行だとしたら? 自己複製過程で下手な鉄砲式をとるような「五月蝿い」ワームと違い、潜伏し、徐々に複製し、ある日何かをトリガにしていっせいに発現する-これはかなり恐ろしい状況を引き起こすのではないだろうか。

 冒頭に挙げたのは「劇場版 機動警察パトレイバー」の1シーンだが、SF小説「衝撃波を乗り切れ」(ジョン・ブラナー、1975)が1988年11月2日のロバート・モリス事件を予言していたように、真実はいつもSFの中にあるのである(笑)
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by SIGNAL-9 | 2005-05-12 16:29 | 電算機関係の話題
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