建文奇聞 ― 八人抱えの大杉の消失 (霊怪談淵)


 武蔵国八王寺町の奥の高尾山第一の大木たる八人抱えの大杉は、古来神木として土地の人の崇敬する有名な古木だった。

 大正四年の夏のある夜、一陣の大風がこの山を吹き抜けた。
 翌日、八人抱えの大杉の姿が見えぬので、村民は風に吹き倒されたのだと思い、行ってみてみると、何十トンあるかしれない大杉が根こそぎに抜けた後があるのに、木の本体がどこにも見あたらない。
 村民が手分けして附近の山々・谷々をくまなく捜索したけれど行方がしれない。

 樹木の神隠しなどということはかつて無かったことである。
 著者もこの大木の行方については何とも考えがつかぬ。




 お、いつもなら超心霊科学でバッサバッサと解説してしまう建文が珍しくさじを投げている。

 武蔵の国の高尾山といえばあの高尾山しかないので、八王寺町は八王子町のことだろうが、まず確認してみたいのは大正四年の夏に高尾山で本当にこんな事があったのか?ということだ。

 これは建文パターンでは自己採話ではなく新聞や雑誌ソースと思われるので、大正四年に高尾山でこんな事件があったのかを新聞であたってみる必要があるだろう。

 風の為に大きな構造物が動いたという話だと、お馴染みの冬の月山で山小屋が一夜にして移動した話が想起される。
 ASIOSの『『謎解き超常現象Ⅱ』(彩図社)によるとこの自然現象は確かに起こったことのようなので、この大杉の話も意外と根も葉のある話なんではないかと思ったからだ。

 で、「大正ニュース事典」・「新聞編年史」・「新聞集成」および朝日新聞縮小版で、大正四年の夏場、5月から9月までにこんな話が無いか探してみたのだが。

 残念ながら発見にいたらず。

 大正四年の夏は大きな地震が頻発したり(もしかして関東大震災の前兆だったのかなぁ)、関東地方は記録的な豪雨の被害が出たりはしているが、高尾山で大杉が消失したという話はどこにも見つけられなかった。

 「高尾山第一の大木たる八人抱えの大杉」が一夜にして消失したら、これは絶対に新聞種になってるはずなのだが。

 「あった」ことは確認できるが、「無かった」ことは証明できないので、これを以てだから何とはいえないが、まあ、そういうことである(笑)。

 ちなみに「怪異・妖怪伝承データベース」で"高尾山"をキーワードに検索すると、「飯縄権現の参道を切り開くときに巨杉の根が一夜で動かされていたのは天狗の仕業と言われる」という伝承があるみたいだ。
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by signal-9 | 2012-02-13 11:16 | 奇談・異聞
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