謎の男 岡田建文 (3)

 …旧漢字や旧仮名遣いをマンマ打つのに疲れちゃたし読みにくいので、以後の記事内の引用は俺的必要に応じて適当に当用漢字と現代かなに変更する。まかり間違ってコピペしようとかいう時には注意して欲しい(笑)

 さて、岡田建文のプロフィールは、
  • 『生長の家』の創始者谷口雅春に大本教を紹介し、入信のきっかけを作った
  • 大正末期に東京に出てきており、浅野和三郎の『心霊と人生』誌の編集に携わった
というところまで調べが付いた。

 八幡書店編集部のプロフィールだけ読むと、第一次大本事件-大正中期以後は鳴かず飛ばずみたいな印象になっちゃうのだが、どうしてどうして、東京に出てきてからも建文はアクティブに活動してるんである。

 それにしても、この岡田建文という人物、かなりのビッグネームと直接コネクションを持ってたわけである。出口王仁三郎に仕事を斡旋させ、谷口雅春を大本教に誘導し、浅野和三郎と一緒に仕事をして、柳田圀男のマブダチ…。

 けっこうすごいメンツである。

 だのに何故、「忘れられた謎の心霊主義者」になってるのだろうか。

 話はちょっと遡るが、大本教時代の大正7年、建文はある雑誌に記事を寄稿している。

 中村古峡が主宰し、科学者から歴史家・文学者まで、錚々たるメンバーが寄稿していた雑誌『変態心理』に、である。

 『変態心理』といっても、今でいう「このヘンタイ!」の意味ではない。異常心理とか神経性疾患とか、そーゆー問題に対して、幅広い分野の専門家が論文や報告を寄せて、学際的な議論を繰り広げていたマジメ極まりない雑誌である。

 当時の『変態心理』は、基本的に迷信排斥が基調であり、神秘主義・心霊主義、それを反映した新興宗教などは打破すべきものとして扱われていた。
 主宰の中村古峡を筆頭に、多くの論者が迷信批判を繰り返し行っていた。

 大本信者の建文は、事もあろうにその雑誌にわざわざ投稿して、ケンカを売ったのである。

「本誌主幹及び寄稿家諸氏に寄す」(第2巻12号)
『変態心理』関係者全てが科学迷信に囚われ、神仏の霊や生物の亡霊を認めていない
「再び本誌主幹に寄す」(第2巻13号)
心霊問題を虚心平気にて研究する者は甚だ少く、世の該研究者は最初より在りと信じて為すものと、迷信たるものと断信して為すものと両様あるように候。大阪府下の田中祐吉君などは後者に御座候。先入主に捉はれては真摯なる研究は出来不申候
 言ってみれば敵地に乗り込んで「お前ら全員ダメだ」と、disりまくったわけだ。

 (余談だが、大本教の神道霊学などを念頭に置いているのだろう、返す刀で「西洋の心霊学者の知らんと欲して知る能はざる霊界の秘密に属する諸事項は、予等一派の研究者にては夙に知悉されあり。霊界の真相は顕界の人に秘密にさるべき理由ありたる為め、千古以来幽冥界の真相が顕界に秘せられたるものに外ならず」などと、欧米の心霊主義に対する「予等一派」独自の心霊学の優越性を誇ってる辺りも興味深い。ちなみに『霊怪談淵』ではこの西洋に対する優越性の理由が述べられている。「西洋よりも我が国の方が霊的現象が多くあり、かつ質も優れているから」だそうだ(^^;)。こんな事書いてたくせに後期の著作では欧米心霊学にすり寄ってるのも、建文らしいといえば言えるのかもしれない)

 この、既存アカデミズムや既存科学に対するあからさまな非難は、その後の建文の著作にも共通する特徴である。例えば比較的初期の『霊怪談淵』(大正15 1926)では緒言10ページ余りを費やしてdisってdisってdisりまくる。
この事を知らざる世の自然科学者は、地球上に実現する物理を宇宙全般の理法と早のみこみをしている。その故にいささかにても、彼らの平素の経験外の現象に対しては、直ちにまずこれを否認してかかり、しかして後にこれを解説すべく学理を作成するのが常習である。
 死後の生命や妖怪などを信じない現代科学の教養者も、もし実際の神や幽霊や妖怪に取り当たったならば、必ずこれが客観的実在を認めるには違いないが、今のところ彼らの知識と無経験とが頑固に顕界の理法だけを指示するのである
 世の科学的教養者は、既に知られたる力法を以て、地上一切の現象を解説し得べしと傲傲語し、たまたま自然現象中に不可解のものあるときにわずかに超理学の語を以て対するも、いわゆる霊象的の不可解現象に対しては妄覚または錯覚の産物と断言し、強いてこれを信ずるものをば迷信愚昧視するを常とする。畢竟これ真の霊怪に無経験なために生じた謬見である
 書評『岡田蒼溟著『動物界霊異誌』』で、柳田國男はこの建文の性向をこんな風に述べている。
(欧米に比べて日本では、不可解現象の)観測が粗末であり、取り扱いが冷淡であった。真摯なる岡田氏はこの態度を公憤して居るうちに、自身いち早く霊魂信者となった。そうして甚だ愚劣にしてまた手剛い仮設敵と、際限も無く闘って居るのである。
 柳田は建文のこのような既存科学との対決姿勢、すなわち「甚だ愚劣にしてまた手剛い仮設敵と、際限も無く」闘うことは、不毛と考えていたようだ。
 岡田氏の著述は沢山の争うべからざる事実を含み、行く行くこれを支配する法則が、この中から発見せられる希望を我々に与える。それを著者自身だけが理学に対する果し状の如く考えて居ることは、これもまた事実であるが、悲しむべき事実である
 確かに建文の『変態心理』誌上への殴り込みは、失敗に終わったと言わざるを得ない。

 匿名氏から名指しで、「岡田は未だ科学に立脚しながらも、科学の妄想迷信から脱したと信じる一霊界の盲者である」…建文は科学をdisるくせに、その科学に乗っかってるじゃないか、と噛み合ってない批判を受けたのみ。

 基本無視されたようだ。

 では逆に、神秘主義・心霊主義サイドから建文はどう評価されていたかというと、こちらもあまり芳しくないようなのである。

 ここで前回紹介した浅野和三郎の建文の編集に対する批判を思い出してほしい。
 岡田氏受持の部門には多数の寄書其他が載せられて居る結果、一方からは色とりどりの面白味もありますが、他方から観れば頗る雑駁で、時に単なる一家言としてのみ通用するような気焔や鼻元思案も見受けらるるのは当然であります。
 「一方からは色とりどりの面白味もありますが、他方から観れば頗る雑駁」
 「時に単なる一家言としてのみ通用するような気焔や鼻元思案(浅はかな考え)も見受けらるる」
 「ドグマが沢山混っている」

 この苦言は建文の著作にそのまま当てはまるのである。

 例えば『霊怪談淵』で取り上げられている「霊怪」は以下のようなものだ。

 妖怪山童、火災の予言、勝手に動く占い版、縮地の法、15分間で80キロ走った自転車、生き霊の頭を殴った禅僧、長期絶食者、突然重くなった御輿、呪いに化け物屋敷に心霊写真…。
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 自分で取材した話から、「今昔物語」「耳袋」など古典からの採話まで、「不思議」だったらなんでもアリ。

 ジャンルも体系も統一感もクソもない、まさに浅野の言う如く「一方からは色とりどりの面白味もありますが、他方から観れば頗る雑駁」である。
 大本教系の「人類愛善新聞」の記者として採用されながら「古くさい記事ばかり」との理由で一度も記事が採用されなかったというのも、恐らくこの辺に理由があるだろう。

 おまけに、建文は既存科学の範疇を超える理法として、しばしば心霊学的な説明を持ち出すが、それがこんな感じなのである。
  • いにしえから霊能力者には蚊が近寄らない。
    霊能力者というのはつまり霊の強い人である。霊が強いと皮膚から外部に放出する霊分子が濃密で強烈であるから蚊のような小虫は強風に吹かれる状態になり近寄れないのである。

  • 念写すなわち思想が写真の乾板に焼き付くのは理外の理でも何でもない。人間の思想は心霊の末梢であって、一種の荷電性の光線を放射するものであるが、その思想の光線は眼から盛んに放射する。この光線が乾板を照らして文字なり絵なり風景なりを映し出すのだ。つまり普通の写真と同じで光線の作用である。
 念写は「目からビーム!」

 浅野でなくても、この「超心霊科学」には、「ちょっと待った」をかけたくなるのでは無かろうか。

 「時に単なる一家言としてのみ通用するような気焔や鼻元思案も見受けらるる」「ドグマが沢山混っている」、浅野の苦言はそのまま建文への批判になっているのだ。

(『動物界霊異誌』の「日本の狐は化かすのに、なぜ欧米には化かす狐がいないのか」に対する建文の心霊学的回答は、「アド・ホックな説明」の見本のようなモノで一読の価値がある―もちろん悪い見本としてだが)。

 こういう書き方はちょっと躊躇するのだが。

 建文は柳田や浅野のような、一高→帝大→官職という絵に描いたようなエリートではない。いわゆる学問的訓練にも相当な差があったはずだ。
 だから(柳田や浅野や『変態心理』に参加しているようなアカデミシャンに比べれば)、論者としてはちょっと…であることは否めない。

 論旨・術語のブレ、場当たり的な説明、上手いとはお世辞にも言えない文章力。
 理学科学を振り回す割には、専門的なフィールドで丁々発止できるほど知識があるとも思えない。

 おそらく建文は本気で、自然科学(理学)の範疇を拡大することで、超常現象も合理の世界に取り込みうると思っていたはずだ。
 だが残念なことに、それを実現・それに誘導するだけの能力は無かった。

 極言すれば、建文という男は、コアな舞台では科学サイドからも心霊主義サイドからも、ハブられていたわけである。

 以下次回。
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by signal-9 | 2012-01-27 13:53 | 奇談・異聞
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