「一般公衆の1年間の被曝限度は 1mSv」ではない。

東日本大震災:県、東葛で線量調査へ 基準統一し31日から /千葉 毎日新聞 2011年5月27日 地方版
 東京電力福島第1原発事故の影響を測定するため、県は31日から、統一基準を設定し、柏市など東葛地域6市を手始めに、県内全域へ、順次、放射性物質の測定を広げたい考え。県が放射線量を測定する施設は、県中央部の市原市の施設だけだったため、独自に地域の線量調査を実施する自治体が相次いでいたが、測定基準がバラバラで、近隣と比較できない状態が続いていた。

 県によると、今後は地上50センチと1メートルの空間放射線量をサーベイメーター(携帯型放射線測定器)で測る手法に統一する。県に対し、「きめ細かく、統一した基準で測定すべきだ」との要望書を提出するなど、汚染を懸念する声が強まっている6市で、31日からの2日間、調査を実施することにした。【斎藤有香】


 誤解を恐れずにいえば、東葛で今まで観測されている0.3~0.4μSv/hという値は、それだけみるとたいしたことはないと思われる。

なぜか。

 「ICRPの勧告によれば、一般公衆の1年間の被曝の限度は 1mSv 」という言い方はけっこう聞くのだが、これは明らかなミスリードである。

 ICRPの基準は、「一般公衆の1年間の被曝の限度」ではなくて「一般公衆の1年間の人工放射線からの被曝の限度」。つまり、この「1mSv/y」には、自然放射線による被曝や、医療行為による被曝は含まれていない。

 例えば、地上1メートルで簡易的なガイガーカウンタで計った放射線が 0.128μSv/h だった、とする。0.128*24*365 = 1.12mSv/y となるので、これは被曝限度を越えている…ではない。

 この測定値が「正しい値」だったとして、測定値からあらかじめ自然放射線分を除外してなければ、この 0.128μSv/h は自然放射線も含んだトータルの値である。

KEKの「暮らしの中の放射線」によれば、1992年の日本一人あたりの被曝平均は3.75mSv/y。
内訳は医療被曝(2.25)+自然外部被曝(0.67)+自然内部被曝(0.81)+その他(0.02)。

 つまり、自然外部被曝 0.67mSv/y=0.076μSv/hくらいの放射線は元からそこにある分。ICRPや日本の基準である「1mSv/y」は、これ以外の【余分】である。

 余分の1mSv/yを「受け入れる」とすれば、0.67と合算し正味の空間線量にして、1.67mSv/y = 0.19μSv/hが許容量。
 0.128μSv/hなんてのはむしろ低い値である。

 それでも確かに、0.3~0.4μSv/hはこれに比べれば高いが、0.67mSv/y(0.076μSv/h)はあくまでも「日本の平均値」である。
 世界平均では 2.4mSv/y = 0.27μSv/h。
 NRCの資料によれば、アメリカでの自然被曝はさらに高くて、平均 3.1mSv/y(0.35μSv/h)
 コロラド州デンバーなどでは、ウラニウム鉱脈と宇宙線の影響もあってもっと高い。5mSv/y=0.57μSv/h。でもデンバーでヒトが放射線でバタバタ死んでいるかというと、そんなことはない。

 東葛でも、調べてみた結果「空間線量は、東葛のどこもアメリカ平均並み。デンバーよりもはるかに低いです」ということにはなるかもしれない。

 でも、だから「安心」…ということには、おそらくならない。

 「住民の不安」の元は、もう「空間線量の過多」には無いからである。
 問題はもう、「正しい」空間線量ではなく、土壌汚染の濃淡に移っている。


 地表に落ちた放射性降下物に由来するγ線は、特に都市部ではおそらく数十メートルと届かないので、数キロ平方に一カ所の単純なメッシュの観測では、「数百メートル動いただけで線量がまったく異なる」みたいなところがでるだろう。
 「平均としてはアメリカなみ」でも、「濃い」場所があって、それを吸い込んだりしたらどうする…というのが「住民の不安」の正体だとすれば、滅多にヒトが近寄らないような場所だったら無視できるだろうが、そうでない場所は優先的に調べて、対処できるところは対処してしまわないと「不安の解消」にはならないだろうということだ。

 「住民の不安解消」が主目的であるのなら、他に比べて汚染が高くなっている場所の特定・およびそこからの内部被曝リスクを低減するという、除染措置を織り込んだ積極的な観点での観測-というよりは調査-が必要だろう。

 水の溜まるところ、公園などの草や木が多いところなどを選択的に計測してみることが必要だろうと思われる。つまり、サーベイメータの向け先を選んで観測する、ということである。

 可能であれば、モニタリングカーを走らせて、「点」の観測ではなく、「線」の観測を行い、そこから放射線の等高線を引いてみて、高いところは重点調査、みたいなことができると良いだろう。
 そこまでコストをかけるのは難しいのであれば、学校や幼稚園を優先して調べるというのはよいことだと思う。

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 個人的には、この「空間線量 1mSv/y」にはあまり振り回されない方が良いように思うのである。
 「20mSv/yまでは何もしない」という当初の文科省の方針は論外だが、何が何でも1mSv/yでなきゃならない、ということでもない。

 リスク評価の上で「空間線量」だけにフォーカスし、ましてや「トータルが1mSv/y」などと意味を取り違えていたりすると、

 「医療被曝分を減らす方が手っ取り早いや。健康診断のバリウム検査やめれば6mSv余裕だからな。今年は胃カメラにしよう」
「ウチの子はことし健康診断のレントゲン検査は無しでお願いします」

みたいなヘンな考え方(いや、まあ、それもひとつの考え方ではあるが)になっちゃわないか。

 そんなことを心配してるのである。
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by signal-9 | 2011-05-30 17:35 | 東電災害
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